デイビッド・セインさんは日本を代表する英語教育者・英語関連書籍の著述家ですが、最近、日本の教育が実用英語に偏り過ぎるのを心配しておられるそうです。これからの日本の子供たちに本当に必要な能力とは何か?デイビッド・セインさんの真意にeisuの伊藤奈緒が迫ります。
伊藤:
私はeisuの採用に関わっている関係で、大学生の就職事情について調べる機会が多いのですが、2〜3年前は採用の条件に英語能力の必要性を強調する企業が多かったのに、最近はそれほどでもないという印象を持っています。セインさんはこうした変化についてどう思われますか?
セイン:
日本で英語の重要性を誰よりも説いてきた僕がこんなことを言うのは何ですけど(笑)、単に英語能力の習得だけをクローズアップするのはすごく危険だと思いますし、日本人にふさわしくもないと思います。グローバル化イコール英語が重要、という風潮には疑問を感じますね。
伊藤:
それは興味深いですね。詳しく教えてください。
セイン:
グローバル化が進行しているのは確かです。でもそこで、日本人が海外に進出して英語を喋るシーンだけをイメージしてはいけないと思います。日本がグローバル化することの最も大切なポイントは、むしろ海外の人が日本にやってきて、日本を活動の舞台にするということ、つまり日本人が日本国内で外国人と関わっていくのが当たり前になるということなんです。ちょうど僕がこうして日本で活動し、eisuの人たちと仕事しているみたいにね。
伊藤:
なるほど、今や日本の都市部では外国人がいつも溢れていて、英語だけでなく、いろんな言葉が日本の街中で交わされています。そんな外国人に、日本人が日本語で応じている。それがグローバル化の最先端の姿ということですね?
セイン:
その通りです。観光客のおもてなしはもちろんですし、移民が増え、日本企業が日本国内で外国人を雇用する、日本人が日本国外はもちろん、日本国内でも外国人と競争するということが当たり前になります。そんな社会になったら、日本人だけが割のいい仕事をできるはずがありません。そう考えると、日本人にとって緊急の課題は、決して英語であいさつができる、簡単な会話ができるということではないはずです。必要なのは、まず母国語で自分の意見を主体的に発信できる能力、そしてリーダーシップを発揮して、価値観の違う相手をきちんと説得できる能力です。そういうものを欠いたまま英語だけ器用に話せても、グローバル化した世界では、英語が話せる便利な労働者として安く使われるだけです。現に海外にはそういう国もあります。しかし日本はそうなってはいけません。そして英語能力を身につけるなら、受験勉強を通じて文法・構文の知識をしっかり身につけ、挨拶や会話に留まらない、レベルの高い体系的な英語力を育成してほしいと思います。
伊藤:
いま進行している教育改革も、グローバル化社会の中でリーダーシップをとれる人材を育てるという意図があるようです。セインさんが仰ることはそれと一致しますね。
セイン:
リーダーシップとは、説得力も持たず、上から一方的に従えと指示することではありません。人が自分で考えるよう促し、人を支え、人に奉仕し、人の心を動かすことです。そのためにロジック、エモーション問わず様々な力を活かします。今の日本の子供たちが最優先で身につけるべき力だと思います。
伊藤:
eisu文芸カップは、弁論・スピーチ・プレゼンテーションを通じて、子供たちに人の心を動かす機会を提供しようという意図で開催されます。セインさんが文芸カップの英語弁論の添削や審査のお手伝いをいただけるのは、そうした主旨にご賛同してくださっているからですね?
セイン:
Yes!! その通りです。これこそ、いまの日本の子供たちに本当に必要な機会だと思います。
伊藤:
人に対して何かを発信しようと努力する過程で、自分が成長し、変わっていく。そうやって自分を変えた力が、人に伝わり、人の心を変えていく。それが発信力の、そしてリーダーシップの本質だと思います。eisuは学力はもちろんですが、人の心を動かせるリーダーシップ教育にも関わっていきたいと思っています。
セイン:
そんなeisuだからこそ、僕も協力したいと思ったんです。これからも新しい時代を創造できる子供たちを育てるため、ともに力を合わせましょう。